医学科 Medicine

法医学

法医学講座職員

法医学講座職員(前列左から細谷、金武)

昭和52年4月に法医学講座が開設され、初代教授として井出一三、平成2年4月に第2代教授として向田正博、平成20年4月に第3代教授として東北大学から金武潤が着任し現在に至る。
40周年時の平成25年12月の時点では、金武教授を箪頭に、原田一樹准教授(平成23年8月、東京大学法医学講座より)、金涌佳雅助教(平成21年4月、東京監察医務院より)の教官3名の構成で教育、研究、及び法医学実務にあたっていた。平成27年4月には金涌助教は、母校である日本医科大学法医学教室講師として栄転された(平成31年4月には日本医科大学大学院医学研究科 法医学分野大学院の教授に就任)。その後、平成28年4月には東北大学より細谷直助教を迎えて教官3名体制に戻ったが、令和5年7月には原田准教授が福島県立医科大学法医学講座教授に就任した。
平成25年4月からは公務員削減の流れで技官が廃止されており、以降、法医学を取り巻く環境には厳しいものがあるが、令和5年8月現在は教官2名と補助業務を行う派遣社員4名が一丸となって取り組んでいる。
平成23年3月に発生した東日本大震災では、金武教授は宮城県及び岩手県に派遣され、死体検案業務に従事した

初動応急対処訓練における法医学演習

初動応急対処訓練における法医学演習

法医学は医学及び自然科学を基礎として、医と法の接点で生じた問題を解決する分野であり、基本的人権の擁護、社会の安全及び福祉の維持に寄与することを目的としている。
卒前教育では医学科第3学年に対する法医学講義及び実習を担当している。金武教授は「死体を視ることのできる医官育成」を目標に掲げ、死体現象論、死因論及び関連法規等に重点を置いた講義を行っている。実習では学生全員を班分けし法医解剖に参加させ、死斑・死後硬直といった死体現象を学生自身に観察させ、その症例について死体検案書を作成させる等、実践的な指導を行っている。国立科学博物館人類研究部グループ長坂上和弘氏を招き、硬組織実習(骨実習)として江戸時代の人骨を用いた実習、関西医科大学法医学講座准教授橋谷田真樹氏による個人識別(DNA 多型)の特別講義を開催し、教育内容を充実させている。また、単位を取得した4年生以上の学生に対し法医解剖の見学を許可し、希望する学生に対しては解剖手技、所見の取り方及び鑑定書作成の指導を行っている。
卒後教育では平成23年度から、専門研修医官を対象とした初動応急対処訓練において法医学分野を担当している。大規模災害時における死体検案業務や検案書作成演習を中心に構成しているが、東日本大震災での体験が反映された内容となっており、参加した医官からは「実践的で分かりやすい」との評価を得ている。
法医学実務では、主として埼玉県警察からの法医解剖(司法解剖及び死因調査解剖)を受託しており、ここ数年の解剖体数は年間130体前後で推移している。法医学講座開講以来の解剖体数は平成7年9月に1000体、平成19年6月に1500体、平成24年4月に2000体、平成27年12月に2500体、令和2年1月に3000体を数え、埼玉県の死因究明への貢献を続けている。法医解剖は社会貢献の側面も持つが、事例そのものが法医学研究の対象となると同時に、医学科学生に対する法医学実習を実施する上で欠かせないものとなっている。
令和3年度から令和4年度にかけて、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い学生講義・実習の一部が中止に追い込まれた。法医学講義では死体写真を多用することからインターネット配信による講義の実施は困難であり、密を避けるため有線による画像配信システムを独自に構築し、複数教室での分散講義で対応した。

金武教授は、死体温からの死後経過時間の推定に関する基礎研究を早稲田大学理工学部と共同で行っており、新たな測定デバイスと推算アルゴリスムの開発に取り組んでいる。この研究を応用し、死体温に限らず死体管理の全過程を記録する「死体トレースデバイス」への発展が示唆されている。また、法医学実務の法的背景に関する研究に着手し、わが国における解剖及び鑑定制度の問題を法解釈論的立場から検討し、将来的には解決に向けての提言につながるものと期待される。
細谷助教は、心臓性急死の分子科学的診断について研究を行っている。これは解剖で得られた心臓に対する組織学的検査の研究、動物実験を使用したストレスに対する心臓内microRNAの関連性に対する研究がある。また乳幼児突然死症候群への生化学的検査に関する検討や、死体血における様々なビタミン値の変動についての検討を行っている。
現・福島県立医科大学の原田教授は本校在籍中に、頭部外傷などの侵襲の加わった法医解剖事例の脳を病理組織学的に解析する基礎研究を行っていた。近年神経細胞再生が起こっていることが確認された側脳室の脳室下帯をターゲットとして、虚血侵襲時における同部の変化を調べたり、近年社会的にも注目されている小児虐待関連病態である「揺さぶられっ子症候群」や、軽微な外傷で発症すると考えられている乳幼児の特殊な急性硬膜下血腫である「中村Ⅰ型」の発症機序について検討していた。

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