病態病理学
沿革
昭和51年5月に病理学第二講座初代教授布施裕補(名誉教授)が札幌鉄道病院から着任、平成7年3月の定年退官まで約19年にわたって在任し講座の原型を築いた。平成7年9月に東京医科歯科大学から着任した第二代教授松原修(名誉教授)は、平成25年3月の定年退官までの約18年にわたり在任し講座を発展させた。平成16年4月の講座改編に伴い基礎医学系講座として残留し、講座名称が病態病理学講座と変更された。平成25年4月に防衛医大OBの津田均が第三代教授として国立がん研究センター中央病院から赴任した。
平成15年度以降の10年間に在籍した教官は、准教授:津田均(平成12~22年)、岩屋啓一(平成21年~現在)の2名、助教:加賀田豊(平成8~18年)、大河内康実(平成8~18年)、菊池良子(平成19~25年)、二宮浩範(平成20~21年)、関澤明徳(平成21~25年)、河手敬彦(平成23~25年)の8名、である。常勤の教務職員と技官は佐々木洋子(昭和53~平成25年)、北田成浩(昭和58~平成24年)が永年在籍したが佐々木の定年退職、北田の異動後は常勤スタッフが置かれていない。現在、教育スタッフ2名と、非常勤の鈴木慎也技師(病理解剖補助、平成24~26年)、佐久間千恵(事務補助、平成25年~現在)、新井久恵(実験補助、平成25年~現在)で講座運営を行っている。
教育の概要
講座設置以来、学生講義・実習は病理学第一講座(現在の臨床検査医学講座)と分担、協力して行っている。平成17年度(29期まで)までの旧カリキュラムでは3年後期に病理学総論、4年前期に病理学各論が組まれていたが、新カリキュラム移行に伴い、平成16年度の2年生(30期)以降の病理学は総論(2年)症例検討(autopsy case study)(4年)からなる形態医学系と、病理学各論から移行した系別(2~4年)に分かれた。総論の講義は疾病の基本的概念・病態を形態学に基づいて理解し、臨床医学の基礎を固めることに主眼を置いている。実習は主に顕微鏡による標本の観察を行っているが英文教科書の演習なども取り入れて、講義内容を確認し理解を深めることをめざしている。症例検討は病態の系統的理解と学生の自主性向上をねらって松原前教授によって導入された。代表的疾患の臨床経過、検査データ、臓器のマクロ・ミクロ標本を少人数に割り当て、グループ毎に検討結果を発表してもらっている。系別では当講座の担当は消化器、循環器、呼吸器、免疫、血液、女性生殖器、感覚器、腎などで、各論的疾患について疾病の成り立ちと病態の理解を目標としている。また研究科を修了した防衛医官や、国内の第一人者の病理学者やがん研究者に招聘講義をお願いし、病理学と自衛隊衛生との関わりや最新の研究、トピックスについて話してもらう、など学生のモーティベーション向上に努めている。
病理診断は患者さんから検査や手術によって採取または切除された検体について観察用標本を作製し、顕微鏡で組織、細胞を観察して病名の確定を行う作業である。当講座の病理医スタッフは、検査部病理を補佐する形で防衛医大病院における病理診断に関わっている。松原、加賀田、津田、岩屋のほか、研究科学生山本、宮居、桂田が病理専門医として診療に従事した。また平成12年半ばからほぼ毎週、乳腺診療グループと共同で乳腺術前術後カンファレンスを行っている。
剖検(病理解剖)は不幸にして亡くなられた患者さんについてご遺族の同意をいただいた場合に行わせていただいている。臨床経過、検査値、マクロ・ミクロ所見を総合して死因、病態、病気の広がり、治療の効果や副作用を評価し、臨床病理症例検討会(CPC)で報告している。臨床からは臨床診断や病態の把握、治療の妥当性や効果を検証し、剖検結果を以降の診療にフィードバックできる。剖検は臨床検査医学と検査部病理で行っており、平成25年の件数は50件であった。
氏名 | 在籍期間 | 学位論文 |
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木村幹彦 | 平成12~16年 | 胃癌における上皮増殖因子受容体(EGFR)、及びc–erbB–2に関する分子病理学的研究:最適な遺伝子・蛋白質変化の評価法確立と生検診断への応用 |
谷本高男 | 平成12~16年 | 扁平上皮癌におけるアポトーシス抑制分子cIAP–1の発現とその生物学的意義 |
神藤英二 | 平成13~17年 | 大腸癌の潤滑先進部におけるlaminin5 gamma2 chain発現の意義–免疫組織化学と組織マイクロアレイを用いた検証– |
森田大作 | 平成13~17年 | 胃癌リンパ節転移に関する研究:センチネルリンパ節ナビゲーション手術の検討およびリンパ節転移とヘテロ接合性消失の関連の検討 |
村川哲也 | 平成14~18年 | 甲状腺未分化癌におけるKIT、EGFR、HER–2の発現とチロシンリン酸化に関する研究:分子標的治療の可能性について |
相澤 亮 | 平成17~21年 | 大腸癌患者における腫瘍と宿主間の相互作用関連因子の研究:Single Nucleotide Poly–morphisms(SNPs)の悪性度指標としての意義 |
小林隆之 | 平成18~22年 | 乳癌進展におけるエストロゲンシグナルを介したケモカインシステムについての検討–乳癌細胞におけるstromai cell–derived factor1(SDF–1)発現の臨床病理学的意義と癌微小環境における免疫応答への関与 |
山本宗平 | 平成19~23年 | 卵巣明細胞腺癌における新たな発癌経路の提唱とその分子基盤に関する病理学的研究 |
小林恵輔 | 平成20~24年 | カポジ肉腫関連ヘルベスウィルスの再活性化機構の研究–KSHV replication and transcription activatorの役割 |
小島令嗣 | 平成21~25年 | マスト細胞へのガレクチン9の作用 |
宮居弘輔 | 平成22年~ | |
桂田由佳 | 平成24年~ |
研究の要約
松原教授時代の病態病理学講座の研究対象は、非腫瘍性肺疾患、血管炎、癌など多岐にわたって行われた。学内他講座、他施設(がん研究所、東京医科歯科大学、国立がんセンター、東京医科大学、潜水医学実験隊ほか)との共同研究も活発に行われ成果を挙げてきた。
医学研究科学生は、論文精読、ディスカッションを通じてテーマ設定と研究計画作成、実験・調査、解析を進め、研究成果の国内外学会や英文誌での発表を行い、学位取得を目指している。更に病理医を目指す研究科学生の場合は、サブスペシャリティを持ち、専門分野では将来権威筋の仲間入りができるよう様々な面での実力を付けてもらうことも目標の一つである
平成15年以降に病態病理学講座で研究科に所属した医官は、在籍中の宮居弘輔(24期, 平成22年~)、桂田由佳(26期, 平成24年~)を含め12名である。研究科在籍中の海外留学経験者は5名である。研究科修了10名の学位論文題目を表1に示す。現在、宮居は精巣腫瘍の発生、進展の分子機構の解明を目指した研究、桂田は乳腺小葉癌の発生に係る分子変化の研究を進めており既に数編ずつの原著英文論文を発表している。
また、研究目的での専門研修医部隊勤務医官(通修)を受入れてきた。
各医師が行いたい研究分野がある場合はその希望に合わせて研究を進めてもらっている。研究科、専門研修、通修を合わせ、当講座の指導下にこれらの医師が発表した筆頭英文論文はこの10年間で50篇(印刷中を含む)である。
松原は学会活動に力を注ぎ、日本病理学会理事、国際病理アカデミー日本支部の事務局、会長を務めた。平成21年には九段会館(東京都千代田区)で第55回日本病理学会秋期特別総会を開催した。
津田は国立がん研究センター中央病院勤務時から様々ながん関連の研究プロジェクトに係り、他施設との共同研究を続けている。現在、乳癌をはじめとするがん発生・進展の分子機構やがん病理診断の精度向上のための研究、治療適応決定のためのバイオマーカー探索などを行っている。また、全国的な乳癌免疫染色の精度管理システム構築、日本臨床腫瘍研究クループ(JCOG)やその他の多施設共同臨床試験研究での病理診断学的検討に係っている。
岩屋は癌における運動亢進の機序を研究し、最近では脂質の可視化による様々な疾病に対する病理学的アプローチを行っている。現在、自らが主任を務める特別研究および防衛医学推進のプロジェクトで中心的な役割を担い、学内および部隊との研究交流を推進している。
講座の掲げる目標は、高いレベルの教育・診療の提供と研究成果の社会への還元にあり、そのための基盤を徐々に整えていきたいと考えている。