看護学科 Nursing

防衛看護学

防衛看護学講座は、防衛省・自衛隊の任務の多様化、国際化、医療技術の高度化に適応するべく、保健師・看護師の専門的技能をもって自衛隊における看護の特性を体系的に探究し、発展していく学問分野として創設された。すなわち“看護”という専門的技能を発揮し“防衛”という任務を全うするための学問であり実践に根ざした理論的基盤の精緻化を担う講座である。
初代防衛看護学講座教授として早野貴美子教授が就任するも、令和元年度より地域看護学講座の教授となった。現在は上野美紀教授(2等陸佐)、楠見ひとみ講師(3等陸佐)、荒科悠子助教(1等陸尉)、佐藤昭太助教(1等陸尉)、星野清香助教(1等陸尉)の5名の教員で構成されている。防衛省に属する保健師・助産師・看護師として、『防衛看護学』という学問体系構築への熱意をもって専心努力している。

防衛看護学は、『看護』『衛生』『防衛』の学問的・実践的理論基盤(パラダイム)を据え、防衛省に属する看護組織の責任と役割を達成するための実践能力の向上、および制約状況下の活動への適応力・組織力・看護の最適化を図る機動力を支持する教育訓練システム評価と開発・臨床看護および部隊衛生に関する研究活動を任務とする。しかしながら、看護学科開設とともに誕生したばかりの科目である。自衛隊の看護活動の歴史や実績に刻まれた経験知さらには使命感といった『見えない能力・特性』を体系化し、『見える化』から『教育的構造化』を図り系統的な教育体系の確立に向けて教育・研究活動を行っている。
基礎教育においては、2年次に防衛看護学概論、3・4年次に防衛看護学各論で構成される。防衛看護学概論における構成内容は、5つの活動シーン『災害看護』『国際平和協力活動における看護』『戦傷病看護』『健康管理』『メンタルヘルス』を教授する。各論においては、『健康管理』『メンタルヘルス』を統合し『ヘルスプロモーション』として位置づけた。
なお、防衛看護学各論では、戦傷病看護、看護理論、公衆衛生学の原理と実践活動とのリンケージを目標として、制約状況下の想定を付与し、シミュレーション演習等を行う。
また、OJTと防衛看護学講座との連動は、これからの臨床・部隊衛生の実践能力の向上と防衛看護学の発展に不可欠なものである。そのため、臨床および部隊活動を実践する看護官との共同研究の機会を目標に掲げている。

上野教授は自衛官の健康管理を専門にしており、集団の特性を踏まえた生活習慣病予防におけるハイリスクアプローチ及びポピュレーションの併用に関する研究やストレスに関連した研究を行っている。また、医官との共同研究により遺伝子と生活習慣病の関連について調査し、保健師として予防の視点から保健指導の在り方を検討している。臨床看護においては、糖尿病療養指導士及び保健師として、糖尿病患者のQOL向上や生活習慣病予防教育を中心に従事した経験をもつ。これらの経験を駐屯地医務室等の保健師育成において活かしている。
楠見講師は、自衛隊中央病院の産婦人科病棟の主任として勤務した経験があり、助産師活動をとおして女性の心身の健康保持増進に取り組んできた。また、保健師として高等工科学校の学校保健業務の経験や陸上自衛隊衛生学校における野外看護、災害看護、野外衛生等において看護官の教育にも携わってきた。感染症に対する研究も実施しており、2019年度は新型コロナウイルス感染拡大防止に係る災害派遣において、自衛官としての経験と感染症の知識を発揮し、任務を遂行した。現在は、妊娠糖尿病女性のセルフケア行動促進に関連する研究や、自衛隊員の緊急救命行為に関連する研究等に講座職員と協働して取り組んでいる。
荒科助教は、自衛隊仙台病院、方面衛生隊に勤務し、東日本大震災や国際緊急援助隊の派遣、海外訓練の参加経験を有する。病院では病棟(内科、外科、整形、小児、精神科、健診)・外来・内視鏡など幅広い勤務経験があり、部隊では野外病院隊に所属し、班長職を務めるなどした。病院や部隊での勤務経験から、隊員の健康管理の重要性を実感し、疾病に罹患する前の予防的視点から、特に若年者の生活習慣や健康意識に着目し研究に取り組んでいる。
佐藤助教は、自衛隊熊本病院、師団衛生隊、対特殊武器衛生隊、自衛隊中央病院に勤務し、東日本大震災の災害派遣活動や、自衛隊大規模接種センターにおける新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種支援活動を行った。対特殊武器衛生隊勤務の経験を活かし、エボラウイルス病などの感染性の高い疾患に対する個人防護具の脱衣技術に焦点を当て、安全で確実な脱衣技術を修得するための教材の開発および実証的研究を行っている。
星野助教は、自衛隊中央病院、師団衛生隊に勤務し、関東東北豪雨の災害派遣や各種訓練において、救護所・収容所の業務運営統括責任者を担った。研究面では、看護職が健康で安全に働き続けられるための「疲労リスク管理」に注目し、教育プログラムの開発と検証を行っている。
防衛看護学講座職員5名は、得意とする組織行動的観点、ヘルスプロモーションの観点、部隊衛生活動の実績の経験知、さらに陸上自衛隊の衛生職種のネットワークを活用し、教育・研究活動を実施している。防衛看護学としての学問体系の構築はこれからの継続した目標であるが、講座職員が一致団結し前向きかつ真摯に組織に貢献できる研究を重ね成長し続けたい。

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