生体情報・治療システム研究部門
メンバー
教 授 川内 聡子(医博・工博)
学内講師 角井 泰之(工博)
客員研究員 西館 泉(東京農工大学)
Ibolja Cernak(Thomas F. Frist, Jr. College of Medicine, Belmont University)
研究目的・方針
光・レーザーの多様・多才な生体作用を活用し,大規模災害・テロ・有事等において多発が想定される各種外傷患者,戦傷病患者の救命,ならびにQOL(生活の質)の向上を目的とした診断・治療技術,さらに特殊環境下における自衛隊員等の安全確保を目的とした生体モニタリング技術の実用化を目指した研究を推進します。これら目的達成のため,積極的に学内の講座等,自衛隊の関係部署,米軍等との連携に取り組みます。
主要研究テーマ
- ⑴ 熱傷診断・治療技術の開発
- ① 光音響イメージング法を用いた熱傷深度診断法の開発
- ② 移植用三次元皮膚培養技術の開発
- ⑵ 創部感染制御・生体除染技術の開発 • 光線力学効果に基づく創部感染治療
- ⑶ レーザー誘起衝撃波を用いた頭部爆傷の研究 爆発物を用いたテロや攻撃の多発により,爆発に起因する頭部外傷(bTBI: blast-induced traumatic brain injury)が米国を中心に大きな社会問題となっています。その特徴は,急性期に軽症と診断されながら,慢性期に高次脳機能障害,片頭痛,睡眠障害,さらにうつ,不安等の精神症状を高率に来すことにあり,心的外傷後ストレス障害(PTSD)との関連も指摘されています。これらの症状は,爆発に伴う衝撃波の脳への作用が原因と考えられていますが,bTBIの病態,メカニズムには不明な点が多く,医学対処法が確立していません。
熱傷は受傷深度によりⅠ度,浅達性Ⅱ度,深達性Ⅱ度,Ⅲ度熱傷等に分類され,皮膚移植治療の要否,感染対策などの治療方針が大きく異なるため,正確な受傷深度診断が重要です。しかし定量的な熱傷深度診断技術は確立されておらず,その診断は専門医の肉眼的診断に委ねられていました。そこで私達は光音響イメージング法に基づく独自の熱傷深度診断法を提案し,ラット熱傷モデルを対象にその有効性を示しました(S. Sato et al., J. Trauma, 2005)。熱傷組織においては血流が遮断することから,創部に血液に吸収されやすい波長の微弱なパルス光を照射すると,光は受傷組織中を効率よく伝搬し,その下部にある非受傷組織中の血液に吸収され,断熱膨張により光音響波(超音波)を発生します。本方法はその光音響波を創部表面で検出し,その伝搬時間と既知の音速の積より受傷深度を求めます(図1)。
その後実用化を目指した橋渡し研究を進め,2013年に臨床用プロトタイプ機を試作しました。また装置の小型・低コスト化,高性能化を図るため,光源としてLED(発光ダイオード)を用いる方式の光音響診断法(Y. Tsunoi et al., Wound Rep. Reg., 2022)についても研究を行っています。
その後実用化を目指した橋渡し研究を進め,2013年に臨床用プロトタイプ機を試作しました。また装置の小型・低コスト化,高性能化を図るため,光源としてLED(発光ダイオード)を用いる方式の光音響診断法(Y. Tsunoi et al., Wound Rep. Reg., 2022)についても研究を行っています。
重症熱傷などの重症外傷においては,急性期の救命に成功しても,慢性期の創部感染に起因して敗血症に至ると死亡率が高く,特に感染が薬剤耐性菌に由来する場合は有効な治療法が存在しません。そこで私達は,薬剤耐性菌にも有効性が期待される光線力学的治療(PDT: photodynamic therapy)に着目し,創部感染に起因する敗血症を予防するための技術開発を目指しています。PDTは光感受性薬剤を光励起し,薬剤分子の励起エネルギーを生体組織中の溶存酸素に移乗させて一重項酸素を生成し,その酸化力によって殺細胞効果を得る治療法であるため,薬剤耐性菌に対しても有効です。また細菌を薬剤や免疫細胞から保護する働きをするバイオフィルムを不活性化する効果も知られています(R. R. Sarker et al., Photochem Photobiol, 2021)。しかしPDTを敗血症の予防に応用した例はありませんでした。
そもそも,脳が衝撃波に曝露したときに起きる現象に関する報告は全くありませんでしたが,私達はラット頭部にLISWを適用して脳で起きる現象をリアルタイム観測した結果(図6),大脳皮質において拡延性脱分極(神経細胞の集団的過興奮状態が伝搬する現象)が起き,その後,酸欠状態(低酸素血症)長時間持続することがわかりました(S. Sato et al., PLoS ONE, 2014)。
また頭蓋骨直下にある髄膜(硬膜,くも膜,軟膜),特に硬膜中の血管が損傷を受けやすく(図7),これに起因して受傷後数日から数週間にわたり,活性化したグリア細胞が損傷部位に集積する現象(グリア瘢痕)を観測しました(S. Kawauchi et al., J Neurotrauma, 2024)。グリア瘢痕は,bTBI受傷者(人)の死後脳で観測されている重要な病態あり,これを模擬することに成功したことから,このモデルを用いた治療実験を開始しています。
業績(令和5年度)
原著論文(欧文)
学会発表(国外)
学会発表(国内)